暗い光と明るい闇
夕暮れ時、赤い光が辺りを包み込む頃
僕は、暗い表情でミッキーさんの玄関に佇んでいた。
「ねぇ、ミッキーさん。
僕の相談聞いてくれますか?
こんな事、ミッキーさんにしか相談出来なくて…」
「どうしたんだい?
さぁ、入って。話は中で聞くよ。」
ミッキーさんは、優しい口調で僕を部屋に招き入れてくれた。
僕の気持ちは、今にも溢れそうなくらいいっぱいになっていて、この気持ちをどうしたらいいのか、誰かに聞いて欲しかった。
ミッキーさんのリビングにあるソファーに腰を沈め、唐突に口を開いた、次から次へとダムが決壊したかのように言葉が溢れ出て、ミッキーさんが口を挟む余裕も無いほど喋り続けた。
「僕、父さんのことが好きなんです。もちろん、親子としての愛情もありますが、それだけじゃなくて…
一人の男として…
恋愛対象で見てしまうんです。
父さんの子供として抱きしめて貰うだけじゃ物足りない…
もっと…ずっと…くっついていたい。
恋人同士みたいに、甘い時間が欲しいとか…
キスしてみたいとか…
体を繋ぎたいとか…
男同士で、ましてや親子なんて間違ってる。
そう思うと思います。
何度も何度も自分の中で葛藤した。
こんなのどう考えたって間違ってるって解ってる。
客観的に考えても、僕が知り合いや友達からこんな事相談されたら『やめた方がいい』って止めるよ。
それでも、心と身体がついて行かない…父さんが欲しい。欲しくて欲しくて堪らない。って訴えかけてくる…
ミッキーさん!!どうしたらいいか教えてください。」
ミッキーさんは、いつもより控え目に微笑んだ。
「マックス、もう答えは出てるよ。僕に相談しなくても心に決まってる。
ただ君は、苦しい思いを誰かに話したかっただけだ。
もう、こんな時間だ。さっきグーフィーから君を心配して連絡があったから、僕の家にいるって伝えておいたよ。
そろそろ、来るんじゃないかな。
その気持ちグーフィーにぶつけてみたら?マックス、君のお父さんだよ?きちんと受け止めてくれると僕は思うな。」
タイミング良く、家のチャイムが鳴った。
「大丈夫だよ!」と言って、ミッキーさんは僕の背中をそっと押して、玄関に向かわせた。
玄関のドアを開けると、父さんが心配そうな表情で立っていた。
「マックスー!いつも出掛けるときは、どこに行くって連絡くれなきゃダメって云ってるだろー?」
父さんは僕の手を掴んで顔を覗き込んだ。
「ごめんなさい… 」
素直に謝る僕をすぐに許してくれた。
にっこり笑ってぽんぽんと僕の頭に手を置いて「帰ろうか」と一言。
帰り道、俯く僕に父さんは「知ってるよ」って呟くように言った。
「えっ・・・?」
驚く僕に父さんは、まっすぐ前を見つめて言った。
「マックスが僕に親子以上の感情を持ってること。マックスの気持ち嬉しいよ」
驚きを隠せない僕に、父さんは微笑んだ。
笑顔を見て気づいた
父さんが自分のことを『僕』と呼んだこと。
「それって・・・」
月明かりの元で僕は立ち止まって父さんに聞いた。
「血が繋がってても、関係ないよって事だよ」
父さんはいつもの笑顔を浮かべて
キスをくれた。
背の低い僕の為にかがんで、優しく触れるだけのキス。
ここは暗闇だけど、月明かりが優しく僕たちを照らしてくれて
夜なのに、とても明るく感じた。
End
H21.11.17
春夜
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