『夏、そして』
(13×17で、夏のあの大事件後日話です)


「お兄さん…東京いつもどるの?」

納戸で2人、パソコンに向き合いながら。
ディスプレイから目を外さずに佳主馬が呟いた。



「まだ正確には決めてないんだ」
ホントは昨日帰る予定だったんだけど

そう言ってふにゃりと笑う。

栄の葬儀も終わり、家が半壊の状態のまま。
健二は陣内一族から完全に「身内」と認識され、
片付けやら後処理に捕らわれ、帰る機会を逃していた。

「ふぅん」
佳主馬は差ほど興味をなさそうにして生返事をした。
でもそれは表面的なもので。


あのOZの大事件後、佳主馬は健二に尊敬という感情以上の
何かを感じていた。
友達とも言いがたく、家族とも兄弟とも違う感情。
ただ尊敬しているというには小さすぎる自身の感覚に
正直戸惑っているのも確かだった。

“お兄さん”とは呼んでいるものの
しっくり来ない。
そして上田から各々が自分の生活に戻った時、
今は身内として認識されている健二との繋がりがどうなってしまうのか。
なぜかそんなことばかり考えるようになっていた。

「佳主馬くんはいつ帰るの?」
パソコンから視線を佳主馬に移した健二が首をかしげる。
「知らない。お盆過ぎくらいまではいるんじゃない」
「そうなんだ。会えなくなると、淋しくなるね」
微笑んだ健二を気配で感じた。

「また来年の夏もくればいいよ」
「うーん、どうかな…僕は親戚じゃないし、他人だから」
「みんなお兄さんのこと、もう他人なんて思ってないよ」
「そうかな…そうだと嬉しいな」
「少なくとも、僕はそうだよ」
「…佳主馬くん」

健二との繋がりを切りたくなかった。
AIに負けた佳主馬に“まだ負けてない”と強い言葉をくれたこの人と。
親戚中の誰もが逃げようと立ち上がったその中で
一人、この家とこの家族を守ろうと戦う意志を見せたこの強い人と。

離れたくなかった。

「だから来年の夏もくればいいよ。」

このキモチは何か分らないけど。

その言葉に健二はふっと優しげな笑みを浮かべた。
「それじゃ…もし佳主馬くんがよければ」
そういって健二は佳主馬のパソコンの“メモ”を開くと
カタカタと単調な音を響かせて文字を入力させていく。
「これ」
「うん、僕の携帯アドレスと、番号。それとOZのも」


夏だけの関係、を恐がっていた佳主馬に
思いもよらない健二からのアクセス。

「来年の夏まで待てないかもしれないから」
そう言って再びあのふにゃりとした笑顔を向けた。
「じゃぁ、東京遊びにいくよ」
「そう?なら僕も名古屋遊びにいくね」

弟ができたみたいでうれしいな。僕、ひとりっこだから。

そう言って笑う健二を見て佳主馬は今はそれでもいいと思った。

自分の心の中に湧き上がる“違和感”がハッキリしないうちは。



end


初カズケンです。書いちゃった。
まとまらなかったなぁ…本トはもっと感情がいっぱい入る予定だったんだけど(笑)
とりあえず、OZ事件の後日です。
佳主馬が健二さんを意識しだしたのは、「これお兄さんがやったの?」っていう
あのワンシーンですよね。←

こっからどうカズケンに進展させよう。(つづくのか!)


201001004 海