大石助けて!!
不二の陰謀〜不二×菊丸〜

-8-

部室・・・・・



「・・・・不二、大石知らないか?一緒に教室を出たはずなんだが・・・」

いつも時間に几帳面な大石がなかなか来ないことに疑問を感じた手塚。

「さぁ、僕は知らないけど・・・廊下とかで誰かと話してるんじゃない?」

にっこりと含み笑いを浮かべた。

「・・・・・そうか・・・めずらしいな」

納得のいかない様な顔をしながら頷いた。

「ねぇ・・・手塚・・・しよ?大石は、まだ来そうにないし・・・」

座ってる手塚を後ろから抱きしめる。

「やめろ、不二」

不二の手を避けながら立ち上がる。

「っ・・・手塚・・・」

振り払われた手を見つめながら、悲しげな表情でそっか・・・ごめんね?

と呟くと手塚に背を向けた。

不二は静かに大粒の涙を流していた。

好きな人に拒絶されること以上に辛いことはない。

「・・・・・」

ごめんねと謝られた瞬間、手塚に罪悪感が襲う。

少しの間、静かな時が流れる。
「・・・・不二」
手塚が不意に不二を呼ぶ。
「えっ・・・・何?」 ゴシゴシとシャツの袖で涙を拭うと目は真っ赤になっており、
泣いていた形跡が残っていたため、

手塚の方を向けないでいた。

「・・・・・・不二」

もう一度静かに名前を呼ばれる。

「・・・なに?手塚・・・」

手塚の方を向けないまま返事をする。

「向けないのか?」

そういうとぐいっと肩を掴む。

そして不二はその反動で手塚の方へ体が向いてしまう。

その瞬間、手塚の唇が不二の唇に重なった。

「んっ・・・・」

目を見開いて手塚を見つめたが、やがてそっと瞳を閉じて手塚の唇の感触を味わった。

「・・・・・すまない」

そっと唇を離して泣かしてしまったことを謝った。

「なんで、謝るの?手塚が悪いわけじゃないのに・・・僕が全て悪いのに・・・」

悲しみに耐えきれなくなったのか、俯き静かに涙を流した。

「・・・不二・・・」

衝動的に、不二の肩を抱き自分の胸に押しつけた。

「・・・・手塚」

ぎゅっと手塚の学ランを掴んだ。

「・・・・」

手塚はしばらく何も言わず黙って不二を抱きしめていた。

「・・・手塚、もう大丈夫だから離して?」

にこっといつもより淋しげな表情で笑った。

「・・・・あ、ああ。」

少しためらう顔をしたが、手塚はゆっくり手の力を抜いた。

「手塚・・・今日・・・具合が悪いから・・・帰らせて・・・?」

いつもの不二の影も形もないような暗い喋り方だった。

「・・・大丈夫なのか?風邪・・・か?」

不二の姿に戸惑いながら怪訝な顔をする。

「うん・・・大丈夫・・・ただ・・・胸が痛いだけだから・・・」

そう言って自分の胸の当たりのシャツを掴む。

「・・・・家まで送ろう。」

手塚は不二の鞄を手にする。

「いいよ・・・一人で帰れる・・・手塚は大石待ってなきゃいけないんでしょ?

だから・・・いいよ・・・」

悲しげな笑顔を浮かべたまま部室を出ようとした。

「待て、不二・・・」

手塚は不二の腕を掴んで離そうとしなかった。

「どうしたんだ・・・?今日はいつもと様子が違うが・・・」

体調が悪いにしても、あからさまに態度が違う不二に手塚も不思議に思う。

「何言ってるの?手塚・・・いつもと、全然・・・あれ?なんで涙なんか・・・」

話している途中で悲しさがこらえきれずに、涙が頬を伝った。

「・・・・・不二っ・・・なにがあったんだ?」

自分のせいだとは気付かない手塚は顔には出さないが不二の涙にかなり動揺していた。

「なんでもない・・・なんでもないから・・・」

喋り続ける間も涙は頬を伝い続ける。

「何でもないわけがないだろ!!」

手塚はそう言うと目線を不二と同じ位置に落とした。

「ホントに・・・なんでも・・・・ないんだ・・・」

泣いているために、声は震えていた。

部室から出ようとするのだが、手塚が腕を掴んでいて逃げ出せない。

「・・・そうか・・・言いたくないなら・・・それでいいが・・・一人で悩むなよ?」

めずらしく手塚が単語以外を話している。

「・・・何で・・・分かってくれないの?」

涙を流しながら手塚に訴える。

「・・・不二・・・?」

手塚は不二の訴えたいことが、いまいち飲み込めず頭の中で苦戦していた。

「どうして、分かってくれないの?僕が手塚のことで悩んでるって・・・」

さらに、しゃがみ込んで号泣をしてしまった。

こんなに取り乱す不二を見るのは初めてで、手塚はあたふたした。

「ふっ・・・不二!?・・・あ・・・え・・・と」

慌ててしゃがみ込んだ不二の肩を抱く。

「ねぇ・・・手塚は、僕のこと好きなの?付き合ってるって思ってるのは僕だけ?

僕だけが手塚を好きなの?ねぇ!!」

手塚の肩の辺りを掴む。

「っ不二!!落ち着けっ・・・俺は、お前のことは・・・好きだし、大切に・・・・」

そこまで口にしておいて、ハッと不二の態度の原因が分かった。

「だって、不安なんだ・・・付き合い始める時だって僕が一方的に言って

流されるように付き合い始めちゃったし・・・。

ねぇ・・・知ってる?手塚は、今まで一度も好きだって言ってくれてないんだよ・・・?」

淋しげに笑った。

「・・・すまない・・・」

自分の失態に手塚は言葉が出ない。

「今からでは・・・遅いかもしれないが・・・あの時、告白してくれたとき・・・

不二という存在は気になってはいたんだ・・・ただ・・・」

「ただ・・・?」

泣き腫らした目で手塚を見つめる。

「ただ・・・ただ、俺のことを好きだと言ってくれているお前に甘んじて
その好意を受け止めてしまったら・・・
お前の人生を・・・狂わせてしまう・・・そう思ったんだ。
・・・男と付き合ったことが・・・将来の汚点にさせたくなかった・・・」

「そんなの・・・大丈夫だったのに・・・そんな先の未来より、今が欲しかったのに・・・
手塚が好きだって言ってくれないことが、どんなに辛かったか・・・。
僕は、やっぱり好きだから抱かれたいって思う。
なのに、手塚は抱いてもくれなくて・・・
そして、好きとも言ってくれなくて・・・ずっと不安だったんだ・・・
本当は、僕のこと好きじゃないのかな・・・?
なんて、毎日が不安で・・・さっきも手をはらわれた時、
心臓が潰れてしまそうな程悲しくて・・・」

不二は悲しそうな笑顔を浮かべたままだった。

「まさか、不安にさせてるとは思わなかった・・・俺が見る不二はいつも笑顔で・・・
強い人間だと思ってた。
俺なんか必要ないくらいの・・。でも、弱い部分もあるんだよな・・・」

そう言うと、手塚は静かに手をのばして不二を抱きしめた。

「僕は、強くなんかないよ・・・いつも不安に押し潰されそうだった・・・常に笑っていたのは、
そんな自分をみんなに見せたくなかったから・・・」

手塚に抱きしめられているせいで、声がくぐもって聞こえた。

「・・・なら、今の不二は本当の不二だということか?」

手塚が不二の髪を優しく撫でると、ときには手塚のひんやりした手が肌に触る。

「フフッ・・・そうかもね。これが今まで誰にも見せたことのない、
本当の僕・・・
手塚にだけ特別ね?
こんなカッコ悪い僕を見せるのは・・・」

にっこりと笑う不二はいつもと変わらない笑みをこぼした。

「・・・・不二・・・愛してる・・・」

「・・・僕も、愛してるよ・・・なんか、やっと気持ちが伝わった気がする。」

「・・・そうだな・・・」

そして、手塚は優しく不二の頬に手を添えて上を向かせる。

二人の唇に互いの息がかかるくらい近づいた・・・その時!!

「グレイトォォーーーーー!不二子ちゃーん!どこだぁ!?」

河村の雄叫びが部室に向かって近づいてくる。

「こういう時って、やっぱりお約束のように邪魔が入るんだね・・・」

二人は苦笑いを浮かべた。

「まっ、両思いになれたしキスはいつでも出来るよね?手塚!!」

にっこりと微笑んだが、少し怒っているように見えた。

「あ、ああ・・・」

笑顔の裏の怒りに内心、恐怖を覚えた手塚だった。

END