おやすみのきす
とある深夜。
伊作と食満が寝静まった頃。
カタ…
屋根裏の板を少しずらし、伊作の足元に降り立った。
それは、タソガレドキ城・忍び組組頭の雑渡であった。
「…」
気配を消して、伊作の寝顔を覗き込む。
起きているときは、プロの忍顔負けの俊敏な動きをみせるときもあるのに
今はとてもあどけない、子供のような表情で眠っている。
まぁ、基本的にはちょっとぬけてて目が離せない子だが。
伊作に気をとられていた間に、同室の食満が目を覚ましたようだった。
眠っているかのような気配のまま、こちらの様子を伺っている。
「…」
今夜はこのくらいにしておこうかな。
おやすみ、伊作くん。
翌々深夜
今夜も伊作と食満が眠りについた頃。
カタ…
屋根裏の板を少しずらし、伊作の足元に降り立った。
「…」
今日は、昨日と様子が違う。
「食満くん…起きてるよね?」
眠ったフリをしていた食満に声を掛ける。
「わかってたんですね、昨日から…。」
「わかってたよ。
そうそう、君たちに危害を加える気はないから危ない道具はしまっておいてね。」
食満が布団の中でくないを握り締めていることにも、最初から気付いていた。
さすが、プロの忍。
「………」
「少しだけ伊作くんの寝顔をみたらお暇するよ。」
「では、私は席を外しましょうか?」
食満は、静かに部屋から出ていった。
「ゴメンネ」
障子の向こう側の食満に小さく呟いた。
すやすやと眠っている伊作に視線を落とし
枕元にしゃがみ込んだ。
口元の布を少しずらし、伊作の唇にそっと重ねた。
柔らかい唇の感触を何度か味わう。
『おやすみ…伊作くん…。』
口元の布を元に戻すと
障子の向こう側にいる食満に「ありがとう、またね」と囁くように声を掛けた。
すぐに食満が障子を開けたが、すでに雑渡はいなかった。
「もう…来なくていいよ。あなたのお陰で寝不足だ…」
食満は雑渡のいない天井をみつめながら呟いた。
『ゴメンネ』
空耳か、そう聞こえた気がした。
伊作は、何も知らずに翌日も安心して眠りにつくのであった。
おわし
2011.4.5
海&春夜
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