ウチの味



「何つくる?」

「と言っても私たち料理得意じゃないから…」

食堂のおばちゃんが不在のため、くの一教室の女子が大食い競争の料理作りを引き継ぐことになったのだが…


不安そうな顔で鍋を前に立ち尽くす。
「普段から台所なんて立たないものね…」

「乱太郎、なにか作れないの?」
「私、料理なんてしたことないから無理だよ…あ」

そこまで言ってから何かに気が付いたように顔をあげる。

「なに?どうしたの?」
「きり丸!料理作れたよね?」
「「えぇっ!」」

女子ときり丸の声が重なる。

「きり丸、料理得意なの?」
意外!と目を丸くする女子を睨みつけた。
「得意じゃねぇけど作るなら食券3枚な。」

ただじゃ作らない、と手を出す。

「もう、ほんとドケチね!」
「まいどありっ♪」

きり丸はニヤリと食券を懐にしまい込むと袖をまくる。

「ほんじゃ作りますか」
そう言いながら手早く料理に取り掛かかった。

「乱太郎、手伝って。」
「あ…あ、うん」
あまりの手際の良さに周囲が動きを止めている中、乱太郎は慌ててきり丸に近寄った。

「運んで」
「う、うん」

次々と出来上がる料理を乱太郎はユキとトモミとともに、しんべえとソウコが待つ台へ運んでゆく。

「うわぁ!美味しい!」
「きり丸すごいねぇ!」
料理を口にした二人が揃えて歓声をあげるのをみて、トモミたちもゴクリと喉を鳴らした。

見るからに美味しそうな食べ物が美味しいと言われているのだから食べたくなるのは必然で。

「ね…ねぇ、大食い競争…やめにしない?」
「みんなで食べよう!」
ユキの言葉にしんべえは料理を差し出した。


「きり丸って雑炊ばっかりかと思ってたけど、こんな手の込んだもの作れたんだね!」

乱太郎から振ったはずの料理依頼だったがこんなにレパートリーがあるとは意外だったのだ。

「近所のおばちゃんに教えてもらってっからな。お前らも食うなら食券プラス3枚だぞ」

「わかってるわよ。でも美味しい!」
「品物がタダだと手の込んだ料理つくるんだよなぁ。きり丸は」


不意に戸口から声がして振り向けば1年は組の教科担当教師。
「土井先生!」
「何してんだおまえら」
呆れた顔をして台に並ぶ料理と空になって積み上がった皿を見てから炊事場で鍋を洗うきり丸をみた。

「土井先生こそ何しにきたんすか?」
「旨そうな匂いがしたから覗いたんだが、やっぱりお前が作っていたんだな」
きり丸を見てふわりと笑う。

「きり丸が作ってるって何でわかったんですか?」

乱太郎たちは食べるのを止めてきょとんと土井の顔をみた。
そこには乱太郎たちが見たことのない笑顔の土井がいた気がしたのだが、すぐにいつもの「先生」の顔があり、はぐらかされる。

「ん?いやなんとなくな。きり丸、私も少し貰っていいか?」

「いっすけど、土井先生には少し物足りないかもしれないっすよ」
器に取りながら土井に渡すきり丸はそう付け加えた。
「塩分、乱太郎たち用に抑えたから」
「あぁ、いいよ」
土井は器を受け取り、乱太郎たちの後ろの席に座ると手を合わせてから食べはじめた。


きり丸は鍋を洗い終えると手を拭きながら炊事場から顔を出し、未だ食べ続けるしんべえたちの台を通りすぎ、土井の前に腰掛けた。


「どっすか?」
「うん、美味い」
「塩分大丈夫っすか?」
「あぁ、これくらいでも美味い」「じゃ今度から塩分抑えますね、身体にもいいし」
「そうだな」

土井はぺろりと食べ終わると再び手を合わせてから「ごちそうさま」と微笑んだ。
そして土井はきり丸の頭を優しく撫でた。


「久しぶりに家の料理が食べられてよかった。」
ふわりと笑う土井に、嬉しそうにはにかむきり丸。

そこには休日の家での二人の顔があった。
< BR>「よし、では私はそろそろ行くかな」
「仕事っすか?」
「あぁ。職員会議だ」
立ち上がる土井の前の器を、きり丸は手に取りながら一緒に立ち上がる。
その様子はあまりにも違和感がなく、逆に乱太郎たちの目はくぎづけとなるのだった。







「…なにあれ」
「…きり丸って…いつもあんなだっけ?」
「私も初めてみた」
「美味し〜!」
「ごちそうさまー!」

満腹の二人を残して3人はしばらくモヤモヤするのだった。


「お前ら片付けやっとけよ!俺バイトいくからな」





end


学園では絶対に無いはずの、土井家からする夕飯の匂いに釣られて寄ってくる土井先生と、夫婦みたいなやり取りをする土井先生ときり丸が書きたかった!

土井先生の当然のようにウチの子なきり丸が好きすぎる。
まだ親子な土井きりでした。
「ソウコは大食いの段」の捏造(笑)

ありがとうございましたっ
20110331