言葉


あの人は

おれの欲しい言葉を

なんの躊躇もなくくれる。



それがおれにとってどんなに想い言葉かなんてあの人は知らない。




「先生」
二人で暮らしている長屋は今日も静かで。


「なんだ?」
それが重いなんて感じなくなったのはいつからだった?


「先生はさ」
「ん?」
「おれをいつまでここに置いてくれるの?」


胸に詰まって行き場を探していた言葉を二回目の春休みに言った。


「そうだなぁ」
土井先生は少しだけ目を閉じて
顎に手をおいて
それからおれを見て



「考えてなかったよ」

そういって笑った。
学園では見せない、家にいるときの笑顔で。


「考えてなかったって…先生大人なんだから一人になりたい時だってあるでしょ?おれがいたらじゃ…邪魔とか…思ったり…」

自分から言った言葉に苦しくなる自分が惨めすぎだ。


一度知ってしまえば手放す時がきたとき
苦しくて堪えられない悲しみに飲み込まれることを知っているから

だから

もう手遅れだけど


そんな不安を抱えて土井先生といるくらいなら
早いうちに自分から手放さなくちゃと思ったんだ。


「きり丸は私がいると邪魔か?」
「何言ってんすか!邪魔なわけない…!」



なら何の問題もないじゃないか
そう言ってまた笑った。


「あとなぁ…私も知ってしまったからなぁ。お前と暮らす温かな空間をさ」



いいものだよな。
家族と暮らすってさ。


「そ…そんなこと言ったら…ほんとに出ていかなくなりますよ!?先生が嫌になっても…おれ…」

いつの間にか目頭が熱くなって
目の前の土井先生が歪んだ。

「いいよ。そのかわりお前が出て行きたいって言い出したら私は全力で引き止めるからな?」


優しい笑みを浮かべて土井先生はおれを胸に引き寄せて抱きしめてくれた。



他人を頼るなんてあの日から捨てて…自分だけしか信じられるものなんてなかったけど


この大人の手を信じてみようと思った。
この人がくれる温かなものの全てを。

end




初土井きりでした。
この手のお話は他サイト様も書いていると思いますが…
ツキセ的な親子として書かせて頂きました!
ありがとうございましたっ
20110327