存在意義
「先生、ひとりは怖い?」



きり丸はとても不安そうな顔を向けてきた。





今宵は雨。

とても冷え、雨音も酷い強さで長屋の屋根を打っている。



雨の夜は眠れない、ときり丸はいつものように私の布団の中へ潜り込んできた。



「そうだな、怖いと思う。今は」



いつものように笑って頭を撫でてやると擽ったそうに肩を縮めた。



「今は?」



「そう、今は。」



わからない、というように目をキョトンとさせて首を傾げてきた。



「昔は怖いとは思わなかったよ。だがお前が私の傍に来てからかな。一人は怖いと思ったよ」



分かりやすく言ってやると強張った表情が少し和らいだ。



「お前が居なくなることの方が怖いと思うよ」



綺麗な黒髪を寝着の上に散ばしてそれがとても色を醸し出す。

その髪に優しく唇を落とすと擽ったそうに微笑んだ。



「せんせ、おれもね、そう思うんすよ」



私の着物の襟もとをきゅっと握り締めて話し出す。



「おれもね、この学園に入る前も入ってからも一人は怖くなかったんす。一人でなんだってできるし、やってやるんだって思ってたから」



優しく髪を撫でてやると安堵の表情を浮かべる。



「でもね、土井先生と一緒に暮らすようになったら、ひとりになるのが怖いって思ったんだ」



「人の温かさを知ってしまったんだな、私たちは」

そのままきり丸の身体を優しく抱きしめてやると小さな身体は私の背中に腕をまわしてきた。



「うん、先生が温かいのくれるんだよ。だからおれは安心してここにいられるんす」

「それならお互い、ずっと一緒にいられるな」

「…一緒にいてくれるんすか?」

「当たり前だろう。離す気なんかさらさらないぞ?」



この子が今欲しいと思っている言葉を知っている。

ずるい大人だな、私は。



でもそれが私の本心なんだ。



この子が離れたいと言ってきたとき、私は快く離してやることができるだろうか。





「先生、それおれも同じ言葉返しますよ」

「それは嬉しいな」

「ずっと、一緒」

「あぁ、ずっと一緒だ」





願わくばこの子と二人で過ごせる幸せが少しでも長く続くように。







end



親子なんだか夫婦なんだか、どちらでもいけるかなと思って

いちゃこら幸せな二人を
描いてみました。

暗い話は苦手なのでw



ありがとうございましたー!



20110512