朧月


「滝…貸してくれ…」

欠けた月が真上で朧気に照らす真夜中、七松先輩が部屋に訪れた。

「わっ…」
慌てて布団の上に正座した私の胸に七松先輩は、倒れ込む。

「すまない…」

広い背中を優しく撫でると、触れた身体から伝わる
早鐘を打つ鼓動が徐々に落ち着いていく。

七松先輩がどうしてこの様な行動に出たのかは、聞かなくてもわかってる。

頭から脚まで土や草木に汚れ、ところどころ赤い染みもついている。
やむを得ず、誰かを殺めたのだろう。
実践訓練で辛いことがあると、こうして部屋にやってきて
私を強く強く、苦しいくらい抱き締める。

以前にも数回ある。
数回の内一度だけ、敵を殺めてしまった、とポツリと呟いた時があった。

私の方から何があったかなど、不要な詮索はしない。
言いたければ、きっと七松先輩から話してくれるだろう。

どのくらい時間が経っただろうか。
耳元で大きな深呼吸が聞こえた。


「また寝間着を汚してしまったな…悪かった」

ぎゅーっと息が出来ないほど強く抱き締められ

「うぐぐっ!!!く…苦しいです…七松先輩…っ」

「おっ!すまん。
いっけどーん!また明日な!」

すくっと立ち上がり、ニッと笑って部屋を出ていく。

いつも強くて、天真爛漫な七松先輩が弱さを持っていたなんて知らなかった。

それを自分だけに見せてくれるのが嬉しいなんて、そんなこと言ったら怒られるでしょうか。

END

20110824
春夜

寝ぼけながら、こんな話あったらいいな〜って思って、慌ててメモを取った話(笑)
滝だけにしか見せない一面があるっていうのも、互いに好き合っているから、心許せる相手だからこそっていう。
春夜だけがニヤニヤするお話です(笑)