Lu : na


満月の夜は、何かが起こるといつも祖母に聞かされていた。






「ん・・・・泣き声・・・?」

・・・おぎゃ・・・・おぎゃ・・・

「桃・・・なんか、子供の声が聴こえる・・・」

隣に寝ている桃城を揺さぶり起こし、そう伝える。

「ん・・・聴こえないよ・・・夢でも見たんじゃないか?」

そう言って再び寝てしまった。

夢なんかじゃない・・・。

だって、今でも聴こえる。

・・・・おぎゃぁ・・・おぎゃぁ・・・

助けを求めるような悲しい泣き声。

目をつぶると見える。

赤い水の中で明るい光の方にここから出たいと手を伸ばしてる。

いつ眠ったのか・・・気付いたら目覚ましが鳴っていた。

「おい!薫!!起きろよ!会社遅刻するぜ!」

「ん・・・・・・あぁ・・・・」

寝た気がしない寝てる間も赤ちゃんの泣き声が響いてきていた。

「なんか、顔色悪くないか?・・・倒れるなよ?」

心配そうに俺の顔を覗き込んだ桃城に少しだけ笑いかけた。

「ん・・・大丈夫だ。今日、早めに帰ってくるし。」

言い終わるのと同じくらいに急いで着替え始めた。

鏡を覗き込むと本当に顔色の悪い自分がいた。

・・・・こんな顔じゃ心配されても仕方ないな・・・

「じゃあ、行くか。」

朝は桃城と同じ電車に乗るから一緒に家を出て行く。

電車に乗って三駅目くらい、俺の身体がおかしくなり始めたのは・・・。

「ごめん・・・桃・・・先に行ってくれ・・・家に戻る・・・。」

次の駅に着いた途端に電車から降り、下りの電車に乗った。

今までに無い腹部の痛み。

切られた時の痛みって、こんなんなのかな?なんて、余裕かまして考えてみたり。

・・・・まじで痛ぇ・・・・。

何これ・・・・。

電車の中でうずくまって動けなくなってしまった。

次の駅で降りなきゃ・・・・。

「・・・・・・海・・・・・堂・・・・?」

近づいてきた人が、聞き覚えのある声で自分の名前を呼んだ。

「・・・っ・・・?」

言葉も無く振り返ると、そこには偶然にも不二先輩がいた。

「どうしたの・・・?お腹痛いの?」

痛みで気を失いそうになりながら、こくこくと首を縦に振った。

「いつから?いままでこんな事あった?」

「無かった・・・・です。関係あるのか分からないですけど・・・

昨日の夜、赤ちゃんの泣き声がずっとしてて・・・今朝から急に・・・」

いつもは、穏やかな表情が少し険しくなった。

「赤ちゃんの泣き声・・・・僕・・・誰かに・・・聞いたことあったな・・・。」

「・・・・・・?」

「あ・・・先に、どの駅で降りるの?すぐだったら、降りてから話すよ」

「・・・・次の駅で・・・・」

しゃがみこんでいる俺の目線に不二先輩は合わせて話してくれる。

「わかった。じゃあ、そろそろ着くね?その調子じゃ歩けないよね?海堂の家までタクシー使って行こう?」

・・・はい。お願いします。と言っている内に駅に着き、不二先輩は俺の手を引いて歩いてくれた。

「えっと、S.H.Gマンションまで・・・。」

タクシーに乗った後も不二先輩は気を使ってくれた。

「さっき、話しかけた話・・・乾に聞いたんだよね・・・・誰かと同調してそういう風になった人の話・・・

直接、乾に聞いた方がいいかも。

・・・ちょっと、桃も呼んで話聞こう?命に係わってたら困るし・・・。」

そう言うと、俺の返事も聞かずに乾先輩に電話をかけ、次に桃にかけた。

「乾にかけたら、これから会社出るから30分位待ってくれって。桃にかけたら、もう電車乗って家に向かう途中だって?」

相変わらずだね?桃も・・・と言いながらクスクスと笑った。

「痛みは、どう?さっきより、顔色も良くなったみたいだけど・・・」

「あ・・・さっきよりは、痛み引きました。」

良かった。不二先輩はにっこりと笑った。

しばらくして、マンションに到着した。

「・・・どうぞ。」

「おじゃまします。」

「っ・・・・うぁ・・・・・なんだ・・・これ・・・」

俺が一歩室内に入った途端に・・・再び赤ちゃんの泣き声が大音響で聴こえ出したのだ。

耳を塞いでも、意味が無い位の大きな泣き声だ。

「え・・・・どうしたの?何か聴こえるの?・・・・。」

不二先輩は困惑したように辺りを見回した。

「赤ちゃんの・・・・声が・・・・・すごい・・・・大きな音で聴こえるんです・・・・・」

不二先輩はどうしたら良いか分からず、助けを求めるように乾先輩に電話した。

「乾・・・?どうしよう。僕は聞こえないんだけど、海堂には赤ちゃんの声が大音響で聞こえるんだって!!」

『なにをしたら、そうなったんだ!!?』

「何をしたらって・・・家に入ったら・・・・そうかっ!!」
『そうだ!思い付いた通りだ!海堂を外に出せ!!!俺も、あと10分ぐらいで着く。もう少し耐えろ!!』

「わかった!」

電話を切ると同時に、海堂をひっぱり出そうと海堂の腕を掴むが、鉄の塊のように重い。

・・・どうしよ・・・・一人じゃ・・・・無理かも・・・。

「薫!!!!」

息を切らして、部屋に飛び込んできた桃城に海堂は、少し安心したような表情をした。

「桃!!手伝って!!海堂を部屋から出さなきゃいけないんだ!!」

「はいっ!」

桃が、海堂に近づいた途端凄い力で跳ね飛ばされた。

「けほっ・・けほっ・・いってぇ・・・・なんで・・・・近づけないんだ・・・・?」

桃もう一回!!!!不二先輩が叫ぶ。

不二先輩が一生懸命俺の手を桃の方に伸ばさせる。

「くっ・・・ぅ・・・・跳ね飛ばされそう・・・・」

「負けるな!桃っ!!」

後ろの方から、懐かしい声が聞こえる。

乾先輩が息を切らして立っていた。

「海堂に、少しでも触ることが出来ればこの状態は何とかなる!」

桃城は、テニスで鍛えた脚力なめんなよ!なんて言って飛ばされそうなのを耐え、俺の腕を掴んだ。

掴まれた瞬間に静電気みたいな・・・(静電気より強いかも)電気が掴まれた所から発生したような感じがして

赤ちゃんの泣き声と桃城が跳ね飛ばされたようなのはなくなった。

「・・・・・・・なんだったんだ・・・・。」

一気に静かになって、何事も無かったかのように世間は今日を過ごしていた。

「はぁ、間に合って良かった。」

「結局・・・なんだったんですか・・・?」

桃城は不思議そうに乾先輩に尋ねた。

「俺が考えるのは・・・とりあえず、霊感が強所為でこうなったんだと思うんだけど・・・・

今回海堂には赤ちゃんの霊が取り憑いたみたいだね。

桃も霊感が強いから赤ちゃんの声が聴こえても良かったんだけど、

聴こえなかったのはきっと波長があってなかったからだと思う。

今回のことで、桃の守護霊が交代したみたいだな。でも、変わってくれてよかったなー?

前の守護霊だったら、海堂助けられなかったぞ?

いや、しかし不二が連絡してくれて良かった。二人だけだったら助からなかったかも・・・。」

「脅しは止めてくださいよ・・・乾先輩!」

桃城の顔が引きつっている。

「本気で言ってるんだ。でも、まだ安心してられないんだがな・・・。

海堂に取り憑いた霊の元を探さなきゃいけないんだ。

海堂がどうしてそうなったか、気になってネットで調べてみたんだ。

そしたら、最近この辺で殺人事件があったらしい・・・・殺害されたのは・・・若い女性・・・妊娠していたらしい。

殺害の方法が・・・ちょっと・・・」

乾先輩が珍しく、言葉をためらった。

「ちょっと・・・・何?」

不二先輩が尋ねる。

「ちょっと・・・グロテスクなんだが・・・・女性は、心臓を一突き。

即死。お腹の赤ん坊を・・・・腹を切り裂いて取り出され・・・

・・・・頭部がなくなっていたらしい・・・・ちなみに・・・まだ、頭部が見つかっていない・・・。」

「・・・・・・・」

一斉に黙ってしまった。

「で、探そうなんて・・・・言わないよね・・・・・?」

恐る恐る不二先輩が乾先輩の顔を伺いながら、呟いた。

「いや・・・・・その通り。」

不二先輩の目が恐怖に怯えた。

「本気で言ってるの?」

「本気で言ってる。見つけないと、海堂が開放されない。

御祓いをすれば、一時的にはいいが・・・実物を見つけた方が確実だ。」

「そりゃ・・・そうかもしれないけど・・・」

不二先輩はがっくりと、肩を落とした。

「いいッスよ。俺たちで探しますから。なっ?」

あぁ。俺は、短く返事をした。

「ちなみに、青学レギュラー陣には、声掛けてあるから一緒に探してくれるよ。河村と不二以外ね。

河村は、今大事なお客さんの接客中だから来れないそうだ。河村は仕方ないとして・・・不二は・・・。」

乾先輩がにやりと笑った。

「わかった、僕も探すよ。」

「そうこなくっちゃな?不二。いい大人はそんな大人気ないこと言わないもんな」

そうだねっ!不二先輩はからかわれ半分に嫌味を言われ、頬を膨らましてそっぽを向いた。

「さて、そろそろ、全員ここに着くはずだよ。」

外から、ざわざわと大勢の話し声がする。

その声は、徐々に近づいてくると共に懐かしい声へと変わる。

「はにゃぁ〜〜。おっちび全然変わってないよねー・・・変わったのは身長くらい???」

「そんなこと、ないっすよ!しかも、もう、ちっちゃく無いんだから『おちび』って呼ぶの止めてくれませんか。」

そんな二人のやり取りが聴こえてきたりして、こんな状態だから集まったんだけど、凄く懐かしくなって嬉しくなった。

「みっんな〜〜!!ひっさしっぶりーーーー!」

部屋に入ってきた途端、菊丸先輩が大げさなジェスチャーと共に登場した。

みんなで、くすくすと笑っていたため、菊丸先輩は怒り出してしまった。

「なんだよーみんなして、俺が入って来たら笑ってるしー!なんなのさぁ〜!ぷんすか!!」

「あ、いや。英二のそういうやり取り聞くの久しぶりで嬉しくてみんなで笑ってたの。」

「ホントかにゃ〜?まぁ、いいけどね!嬉しくなってくれるんだったら。」

にっこりと、菊丸先輩は笑って機嫌が良くなったみたいだ。

「さてと、和むのはここまでにして本題に入ろう!」

乾先輩が場を制す。

「みんなには、2組づつに分かれて貰って周辺を探してもらう。

ペアは中学時代のダブルスペアの方が気心が知れてていいと思う。

一応言っておこう。

手塚・不二 大石・菊丸 桃城・海堂 俺と越前で、探してくれ。何か分かったらメールで知らせてくれ。

探す場所は、殺害されていた周辺だから・・・そうだな、公園辺りから川原の辺りを・・・。」

「おぅ!!!」

全員手分けして、草むらを掻き分け探した。

探し始めてから5時間位経ち夕方になり、空が薄暗くなってきた頃・・・



「この赤い点・・・・血じゃないか・・・・?」

桃城が、公園の隅で赤い点をいくつも見つけた。

『公園の隅で血らしきものを見つけました。至急こちらに向かってください。』

そうメールを送った。

2、3分後には公園に全員が揃い捜索を始めた。

1時間後・・・野犬にやられたんだろう、右半分が無くなった頭部が草むらから見つかった。

「ぅ・・・・さすがに・・・グロいな・・・・」

「うん・・・・確かに・・・」

「お線香を焚いて手を合わせるぞ。」

手塚先輩がそう言うと、乾先輩がさっとどこからかお線香を取り出し、火を付けて立てた。

全員が一斉に手を合わせ、成仏を願った。

すると、どこからか赤ちゃんの笑い声が聞こえてきて消えた。

「えっ・・・今、みんな聴こえたよな??」

不思議そうに大石先輩が呟くと。

みんなが、うんうんと頷いた。

「聴こえた・・・現実にその辺に子供がいたんすかね・・・?」

「違うみたいだ。だって、もうこんなに真っ暗で子供や、子供連れの親なんて見当たらないんだから。」

皆がそれぞれきょろきょろと見回したが、そのような人は一人も見当たらない。

「本当にこの子だったのかも・・・・。」

不二先輩は小さく呟いた。

「そうかもな・・・・。」

乾先輩がそう、呟いた。

「警察に通報しよう・・・さすがに、このままじゃやばいし・・・。」

大石先輩がそう言って、警察に通報した。

5分後くらいにサイレンの鳴ったパトカーが公園に到着した。

俺たち8人は警察に連れていかれ、事情聴取をされ・・・再び大変な目にあった。

半分怒られながらも、良く探してくれたとお褒めの言葉も頂き警察から開放された。




「ふぅ・・・これで、一段落かな・・・。皆、お疲れ様。良く探してくれたな!じゃあ、一杯行くか!!」

乾先輩が声をかけると、皆一斉にテンションが上がり、その夜は最高に盛り上がり

3件目くらいでお開きになった。


「今日・・・嫌な事もあったけど、楽しくて良かったな?」

帰りのタクシーの中で桃城がそう呟いた。

「まぁな・・・。でも、ホント皆に会えたし良かった。」

俺がちょっと笑うと、桃城も優しく笑った。

「また、暫くみんなと会えなくなるけど・・・飲み会とか、出来たらいいよな?」

「そうだな・・・・皆、そう思ってるんと思うよ・・・」

桃城が俺の頭を軽く撫でた。

「うん・・・だといいな・・・・。」



それから、数日後───

数日前に集まったメンバーが、同じことを考えていた事が判明。

乾先輩が幹事で飲み会が開催されることも決定。

ちょっぴり悲しい気持ちは、無駄だったようだ。

でも・・・・やっぱり、大勢で騒ぐのは嬉しいから

悲しい気持ちより、嬉しい気持ちの方が勝ったようだ。


乾杯の音頭は・・・菊丸先輩。


「また、ぜぇ〜〜ったい皆で飲み会するぞぉ〜♪」


だった。


END

終わったー。 ここに来るまで長かった・・・・。
7月に書き始めて、かれこれ・・・今は9月(爆)
エンディングがどうしても決まらなくて
気づいたら、季節も秋になっていました(爆笑)
いやー参ったよ。
本とに。まとまらないんだもん(-_-;)
でも、やっとこの小説から開放された!!!
ちょっぴり、ホラー系な感じだけど気に入ってもらえたら
嬉しいです。

春夜
2004.7.8