■桃城×海堂■
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涙色
「・・・ごめん・・・海堂・・・ごめん・・・」
「・・・やめろっ・・・桃城・・・そんな謝るな・・・・」
「・・・ごめ・・・」
初めて見るこの男の涙に海堂はうろたえていた。
涙を流したまま優しく抱きしめてくれる男に海堂は
身体を庇いながらもそれにこたえた。
「俺が・・・もっとしっかりしてれば・・・」
海堂の肩口で尚も悔やむ桃城。
「・・・お前は俺を助けてくれた・・・。それで十分じゃねぇか」
海堂には桃城の悔しさは到底分からないだろう。
「・・・でも・・・お前をそんな風にした奴・・・許せねぇ」
「・・・・」
そう、あの事件が起きたのはつい2時間前のことだった。
「海堂〜」
「・・・菊丸先輩・・・なんすか」
同じコートでラリーをしていた菊丸がふと目線をはずした。
「うん、ちょっと俺これからコート抜けるから」
「あ・・・はい。・・・大石先輩の所っすか」
「・・・うにゃー・・・なんのことかにゃ?ちがうよん。んじゃ!」
「・・・・・・・」
菊丸の態度に海堂は少し笑う。
そしてまだ来ていない桃城の姿を探しコートフェンスの外へ
目線を投げる。
「・・・・?」
フェンスの外でテニス部員ではない3年生らしき男がしきりに
手招きをしているのが見える。
「・・・・」
コートを見渡しても3年のレギュラー陣は一人もおらず
その手招きが自分に向けられていることを知る。
「・・・・なんっすか」
「部室に誰か3年生いない?」
部員以外、部室に入ることを禁止されている。
「・・・・さぁ・・・知らないっす」
「調べてもらえない?ちょっと用事があってさ」
「・・・はぁ・・・」
首を傾げながら海堂は頷いて部室へ向かった。
「今日は来てないの?」
「・・・誰がっすか?」
「桃城くん」
「・・・まだみたいっすよ」
何で名前を知らない3年生が桃城のことを知っているのか
不思議には思ったが、桃城は校内でも騒がしく有名だったため
あえて深く突っ込むことはやめた。
「・・・誰もいないみたいっすよ」
「あれーいないのかぁ・・・」
男は「困ったなぁ」と表情を歪ませる。
「菊丸くんのロッカーってどこ?これ入れといて欲しいんだけど」
男は一枚の折りたたんだ紙切れを差し出した。
「・・・」
海堂はそれを受け取ると、部室の中へと足を踏み入れた。
「・・・これでいいっすか」
菊丸のジャージの上へ紙切れを置いて入り口の方へ
顔を向けた瞬間のことだった。
「な・・・・っ」
男はにっこり微笑むと部室の扉を閉め鍵を掛けた。
「何してるんすか・・・部長がきたら・・・」
男は部室の中へ入りこんできていた。
「手塚くんなら平気だよ。不二くんと職員室にいたし。」
そのままジリジリと海堂の側へと寄って来る。
「それに、鍵かけちゃったら手塚くんでも入ってこれないよ」
悪気もなさそうに海堂を追い詰める。
「・・・あっ・・・」
後ずさりを続けた海堂も背中に壁があたると小さく息を呑む。
男は優しそうな笑みを浮かべているのにどこか恐ろしい。
「ちなみに、良い事教えてあげるよ。鍵当番の大石くんね。」
行き場をなくした海堂の耳元で小さくそっと囁く。
「菊丸くんと一緒だったから。当分帰ってこないよ」
「・・・・」
特に何をされているわけではない海堂。
しかし、足が動かない。
「どうしたの?そんなに恐がらなくていいのに」
男の微笑みの奥に見え隠れする恐ろしい眼差しに
海堂は本能的に恐怖を身体全体で感じ取っていた。
「俺・・・部活に戻らないと・・・」
視線を外して横へ逃げる。
「いいじゃない。もう少し僕とお話ししようよ」
パシッと手首を捕まれ再びビクッと肩をこわばらせる。
「だから、そんなに恐がらないで?」
そう囁いて海堂はいとも簡単に床へ押し倒された。
「うわっ・・・」
理由は簡単。
海堂よりも身体が一回りは大きいからだ。
身長も20センチは軽く違うであろうこの男に
腕を捕まれ足の間に割って入られたら抵抗は愚か
身動きすらままならない。
「やだっ・・・離せっ・・・」
そして海堂が執拗以上に恐がる理由。
それは同じ部活の先輩、乾との一件が鮮明に蘇ってくるのだ。
「ほら。動くと跡がついちゃうよ?」
海堂の手首にギリギリと食い込む大きな男の手。
「痛ぁっ・・・」
「あ、ごめんね?でも海堂くんが悪いんだよ?動くから」
耳元でねっとりと囁かれ海堂の背筋に悪寒が走る。
「やめ・・・ろっ・・・はなせっ・・・」
もう二度と桃城を裏切りたくない。
そう誓ったのに。
またあの時のような過ちを自分は繰り返してしまうのだろうか。
こんな状況になっても、まったく抵抗することのできない自分に
腹が立つ。
「くぅっ・・・」
あんなにトレーニングを積んで体力をつけて
テニスで活用できても、肝心な所にはなんの力もついていない。
「乾くんは良くて僕はだめなの?」
「な・・・・」
男の言葉に耳を疑う。
ナゼそれを・・・。
「乾くんが君の事を好きだったことは知ってるんだよ?
乾くんから話を聞いているうちにね。僕も君のことが好きになっちゃったんだよ。」
「触るなっ」
口に出されるほど悔しいものはない。
忘れようと努力したあの過去。
自然と海堂の瞳に涙が浮かぶ。
「辛かったんだね・・・ごめんね思い出させちゃって」
「ふざけるなっ・・・・」
「ふざけてなんかないよ。僕はいつだって君のことを想っていたんだよ」
穏やかな口調ほど恐ろしいものはない。
「・・・・っ・・・・もも・・・」
二度と助けてなんかもらうか。
そう誓ったあの言葉は脆くも崩れ去る。
瞳の奥に桃城の顔が浮かぶ。
「これるわけないよ。桃城くんには他の用事を頼んであるから」
「っ・・・・」
どこまで計算してこの男はここにいるんだろう。
桃城のことも手塚のことも大石のことも。
すべてこの男の計算で事が運ばれている。
助けはこない。
そう感じた瞬間、海堂の耳に聞きなれた声が聞こえた。
「海堂!!いるのか!?海堂!!」
部室の扉をガンガンと叩いて叫ぶ桃城。
「ももっ・・・」
「呼ぶわけにはいかないんだよ、海堂くん」
すかさず手で覆われた口に声をさえぎられる。
「んんっ!!」
それでも必死に逃れようと抵抗する。
あの扉の向こうに桃城がいる。
そう考えると自力でもあの扉の外へ出てやる。
その想いが強まる。
「強情だね・・・」
そう囁かれた瞬間だった。
「強情なのはてめぇだ!!!」
大きな音を立てて部室のドアが蹴破られるのを海堂は
目にしていた。
「離れやがれ!!」
そのままの勢いでけり倒してくる桃城。
「海堂!大丈夫か!?」
大きな音とともに倒れこんだ男はうめき声をあげる。
「桃城くん・・・君には仕事を頼んでおいたはずなのに・・・」
「俺はテニス部なんでね。バスケは専門外。」
そう吐き捨てた。
「・・・・もも・・・」
桃城に蹴られても立ち上がってくる男のタフさに
桃城も苦い表情をした。
「海堂、逃げるぞ!」
パッと桃城の手が海堂の腕を捕らえた。
「いたっ・・・」
「あ・・・ごめっ・・・」
先ほど強く男に捕まれた場所が鬱血している。
思わず手を離そうとした桃城に海堂は笑う。
「大丈夫。行こう!」
蹴破られたドアから逃げ出そうとした瞬間だった。
「まてっ・・・・」
「うわっっ・・・」
「海堂!!」
部室の床が赤に染まった。
「海堂!!」
「だ・・・じょうぶ・・・・・左手だから・・・」
痛みに歪んだ海堂の表情を目にした桃城は
ナイフをいつのまにか手にしていた男にめがけて拳を繰り出していた。
「・・・桃城 ・・・」
「・・・・もう・・・俺絶対お前から離れないから」
桃城の一発が命中した男はそのまま気を失った。
そして駆けつけた部長がそのありさまを見て、
いろいろと手配してくれたため物事があまり大きくならずに済んだ。
さすがの部長も見た瞬間は言葉を失っていた。
「桃・・・ごめん」
「・・・なんでお前が謝るんだよ・・・」
「・・・だって・・・俺がしっかりしてなから・・・」
「・・・せっかく忘れかけてたのにな・・・」
桃城は小さく小さく舌打ちをした。
苦々しい表情を残したまま。
「・・・・もう・・・・大丈夫・・・だ。」
海堂は桃城に口付けをする。
「・・・・俺には・・・お前がいる・・・」
もう絶対裏切りたくない。
そう想うのに。
いつだってアイツのこと想ってるのに・・・。
続く。
やっぱり乾くん悪者じゃん俺(笑)
うちは乾リョなのに。(爆笑)
しかも続くの!?(笑)
たぶん続かないな。てか思い出したら
書く(笑)
なぜ続くにしたかって?
それは・・・話しが思い浮かばなくて困ったから(笑)
2003.6.21海
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