片翼が犯した罪。−海堂編-
「桃城・・・・英語の教科書、貸してくれ・・・・。」
教室のドアの付近で桃城に話しかける。
「おぅ!いいぜ。ちょっとまってて」
ゴソゴソと色々なものが詰まっていそうな机の中を漁って英語の教科書を取り出す。
「はい。でも、最近良く教科書借りに来るよなー。珍しいな?几帳面の海堂が・・・。」
教科書を渡しながら、桃城はそう言った。
「ゴメン・・・。なんか最近、忘れ物が多くて・・・。」
「いや、いいんだけど、珍しいなと思っただけ。次から気を付けろよ?」
「ありがとう。」
桃城は返事の代わりにニッと笑うと、再び友達の輪の中に戻って行った。
本当は、教科書を忘れたなんて嘘。
毎日きちんと持ってきている。
教科書を忘れたなんて、子供じみた嘘をつかないと、アイツに逢えないから。
部活だけじゃ足りない。
廊下ですれ違うだけじゃ・・・。
あいつは、廊下で俺とすれ違うと、俺に向けて笑いかけてくれる。
でも・・・それだけ。
話しかける事は絶対にしない。
だって、あいつの周りにはいつも、友達が取り巻いてる。
俺の入る隙が無い。
だから・・・。
わざわざ逢いに行く。
でも、2人の時は「薫」と動く唇が学校に居る時は「海堂」と動く。
それが、本当に悲しい。
あいつに逢わなければ、そう思う事も無いだろうが
俺は、本当は我侭だから、あいつにたくさん逢いたいし、一緒に居たい。
隣のクラスだと言う事が、どうして・・・・と思うくらい。
たった一枚の壁で分けられているだけなのに、教室に居る間は桃城が遠い。
俺の中に、こんな気持ちがある事をあいつに打ち明けたら、どんな顔をする?
本当は我侭で、独占欲が強くて・・・・こんな俺を知ったら、あいつは俺を嫌いになる。
絶対に言わない。
態度に表さない。
俺の中で決めた事・・・・・。
あいつに嫌われたくないから。
あいつに好かれて居たいから。
あいつの傍にいたいから・・・・・。
END
シリアス系にしてみました。
桃城以上に桃城を想う海堂。
嫌われたくないから、本当の事を言えないで居る。
みたいな感じで(笑)
片翼─桃城編─とセットです。
お楽しみ下さいませ。
明月 春夜
2003.5/20
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