椿姫



「良く、こんないい部屋を予約出来たなー。すげー・・・」

俺達は、雪の降り続けている某県に、いい温泉宿があると聞いて遊びに来た。

と言うか、行きたいと言ったら、俺の親が何故か機嫌よく金を出してくれたのだ。

庭に大きな家族風呂があったりして、かなり高そうな部屋なのに良く出してくれたな・・・・。

「嬉しいな?こんなに良い所に泊まれるなんて。」

「ああ。ホントに。」

海堂も珍しく楽しそうにしている。

来て良かった。

「あ、大きな椿・・・。綺麗だな・・・・。」

そう言った海堂の目線の先には、奥庭に植えられている大きな椿の木があった。

「本当だ・・・。こんなに大きくなった椿の木を見るのは初めてだ。」

「うん・・・俺も初めて見た・・・・樹齢どのくらい経ってるんだろうな?」

「んー・・・何十年と経ってるんじゃねぇ?これだけ大きければ・・・」

そう話しながら、この椿が綺麗過ぎて、何故か2人で魅入られてしまった。




「ん?やべ・・・。もう、こんな時間だ。ちょっと行ってくる!」

俺は、ある用事を思い出して、海堂に理由もいわずに部屋を飛び出した。

「えっ!オイ!!」

理由も分からず、部屋を飛び出して行った桃城半ば呆れた。

しかし、そんな事が気にならないくらい、不思議な事が起こったのだ。

誰もいるはずがない、奥庭から女の子の声が聞こえてきた。

「置いて行かれちゃったのね。」

「えっ・・・」

俺が、振り返ると、同じくらいの歳で、赤い生地に小さな蝶の刺繍が入った

着物を着た女の子が立っていた。

「あの人が帰ってくるまで、一緒に遊ぼう。」

俺の返事を聞く前に、女の子に手を引かれ庭で鞠つきをする事になった。

この女の子は、「椿」と名乗った。

「この椿と同じ名前なの。私の大好きな花・・・・・。」

そう言った、椿の表情は、少し淋しそうだった。




どのくらい、椿と遊んだんだろう。

時間が経った気がしない。

ふと、桃城はどうしたのか気になりだした。

「ねぇ・・・・さっき出て行った人の事が気になるの?」

「えっ・・・・。いや、ちょっとだけな?」

俺が少し、戸惑ったような笑顔を見せると、椿は一瞬悲しそうな表情をした。

「あなたなら・・・・ずっと、一緒にいてくれると思ったのにな・・・・。あなたは、優しい人だから。」

椿は、悲しそうに微笑んだ。

「えっ・・・・ごめん・・・一緒にはいれない・・・・。

でも、俺は・・・優しくなんて、無いよ・・・・。相手を大切に思うことだけに集中して・・・・

集中しすぎて・・・相手の気持ちすら見えなくなってる・・・。」

ううん。椿はただ首を振った。

「そんなこと、無いよ。私も・・・かつて・・・・いえ・・・今も・・・・

あなたと同じ・・・。でも、それでも、いいと思うの。ただ一人を愛し続ける事ができれば・・・・

ただ一人を愛する事ができれば、あいては気持ちを分かってくれてる・・・。

私にも、いたの・・・。ううん・・・今でも、想い続け待っている人がいるの・・・。」

「そっか・・・来るまで待つつもりなのか?」

椿はにっこりと微笑んだ。

「あ、さっきの人が帰ってくるわ。」

椿はドアを指差した。

「最後に・・・あなたの名前を教えて?」

「海堂・・・・海堂薫だよ・・・。」

「そう・・・・薫君。私を楽しませてくれてありがとう。もし、私の待っている人に逢えたら、伝えて・・・・・

私は、ここで待ち続けると・・・。

あと、これはお礼。優しい薫君へ・・・。」

椿は、少し楽しそうに微笑んで消えた。




「ただいまー。どうした?薫、そんな所で・・・。」

止まっていた時が、流れ出したかのように桃城が帰ってきた。

「あ・・・いや・・・椿を・・・・見てた・・・そしたら、女の子の霊を見て・・・。」

今、起こった事を説明しようとしても上手く説明できない。

「その子の名前・・・「椿」って言っただろ?」

「えっ・・・・何で知って・・・。」

不思議そうな表情をした俺に桃城は笑った。

「その話。この旅館で、有名なんだよ。この部屋やっぱり曰く付きの部屋だった。」

桃城は少し苦笑して椿・・・椿姫の事を話し出した。

「椿って娘は『椿姫』って呼ばれてな?」

椿姫の話はこうだった。

昭和初期、この旅館が建つ前にここは、大きな屋敷があった。

この屋敷には、一人娘がいて、父親に溺愛されて育った。

ある日、娘はある男と恋に落ちる。

身分の違いはいまだに、引きずられている時で・・・2人は駆け落ちをしなければ

幸せになれないと思い。

数週間後に駆け落ちの約束をした。

あの、椿の所で待っていると・・・。

しかし、駆け落ちをしようとした当日。

父親にバレてしまったのだ。

父親は、娘を自分の決めた他の男性と結婚させたがっていた・・・・。

逆上した父親は、あんな男に取られるくらいなら・・・と逃げ惑う娘をあの椿の元で射殺してしまった。

不運にも、その日は、今日のように寒くて真っ白な雪の降る日で・・・・。

椿の身体は、雪で覆われた。

娘を殺した父親は、涙しながら狂って椿を射殺した銃で死んだし、椿姫は雪に覆われて

雪が溶ける、次の春まで遺体が見つかる事はなかった。

もちろん、愛した人にも・・・。

その男は、ちゃんと、約束どおり椿の木の所まで来たんだ・・・。

そして、ずっと待ち続けてた。

身体が冷え切って、凍えそうになるまで・・・。

でも、椿は来なくて・・・・。

とうとう、その男もそこで倒れた。

偶然にも街の人に見つけられて、命は取りとめたが・・・・。

次の春に、椿の遺体が見つかって・・・男は、とても悲しんだ。

どうして、自分が椿を見つけてあげられなかったのかと・・・・。

椿が見つかった次の日・・・・・

男は自殺した。

椿が大好きだった、あの椿の木の側で。

「もう・・・いい・・・・。」

「あっ・・・ごめん、喋り過ぎた。」

小さく呟いた俺に、桃城はバツが悪そうに頭をかいた。

「最後に、椿に伝言だ・・・・。この旅館に長く伝えられている言葉。」




『君が気付かないだけで、私は、いつも傍にいるよ・・・。』




桃城は、その男にとり憑かれたように、奥庭の椿の木に向かってそう言った。

桃城が、言い終わった瞬間。

ほんの一瞬だけ、2人が一緒にいる姿が見えた気がした。

目の錯覚かもしれないが。


「桃・・・俺達・・・ずっと、一緒にいような・・・。」

桃城を後ろから抱きしめた。

「あぁ・・・俺達は、ずっと一緒だ・・・」

桃城がどんな表情をしていたか、見えなかったから分からないけど、

大体は判る。

優しく笑っていたと思う。


俺達が、ずっと一緒にいれるなんて そんな保証は無い。

だけど、もし一緒に居れるのなら、あいつが俺を嫌いになるまで傍に居たい。

そして、離れてしまうことがあっても好き合っていたい。

椿姫達みたいに・・・。


END

椿姫と言う単語を使って見たかったんです(笑)
今回また、シリアス系で、なんか、読み応え無い!とか思った方
ごめんなさい(汗)
しかも、なんか内容良く分からん・・・・(苦笑)
全て、許してください!!!!(平謝り)
また、近いうちにエッチくさいの書くんで許してください(笑)

明月 春夜
2003.5.21