パソコン室
-7-
「たっ・・・立てる!」
しかしそれが恥ずかしく顔を真っ赤に染めて立ち上がるがフラッと足がもつれる。
「ほら!また、強がって・・・。無理しなくていいんだよ。甘えたっていいんだから」
海堂を支えてベッドに座らせて方にワイシャツを掛ける。
「・・・」
その言葉に海堂は俯いて掛けてくれたワイシャツを握り締める。
「どうした?」
優しく顔を覗き込む。
桃城はドキッとした。
海堂は声を立てずに涙を滴らせていたのだ。
「薫・・・また泣かすようなことしちゃった?」
少し困ったような笑顔を見せた。
「っ・・・」
”何でもない”と言うように海堂は首を振り続ける。
「理由も無いのに泣くわけないだろ?」
尚も海堂は首を横に振る。
「ふぅ・・・そうか。言いたくなければ言わなくていいや。落ち着くまでこうしててやるから」
桃城は海堂を抱きしめた。
「っふ・・・」
とうとう堪えきれなくなったのか海堂の口から小さな嗚咽が漏れる。
桃城に身体を預けて自分でも嗚咽が納まるのを待った。
優しく海堂の頭を桃城がなでる。
「あり・・・がと・・・」
微かに海堂はそう言った。
「少しは落ち着いたか?」
優しく頭を撫でながら問い掛ける。
「・・・ぅん」
コクンと桃城の手の下で頷く。
「そっか・・・じゃぁ、シャワー浴びに行こう」
海堂を軽く抱き上げドアに向かう。
「・・・」
桃城の腕の中で黙り込んで恥ずかしさを押さえ込んでいる。
階段を折りきってバスルームのドアを開ける。
中に入り海堂をバスタブの縁に座らせると桃城は優しく身体をお湯で流して
泡立てたスポンジで身体を洗い始めた。
「・・・ん」
素直に身体を洗ってもらう海堂の目はぼんやり桃城のキレイな筋肉のついた
身体を眺めていた。
「薫・・・後ろ向いて?」
前を全て洗い終わって、背中を洗わせるように促す。
「・・・え?あ、あぁ」
ぼけっとしていたところに、いきなり話し掛けられハッとして頷く。
背中も優しく洗われて、海堂は桃城の愛情が伝わってくるように思えた。
「流すぞ」
桃城の言葉に声を出さずに頷く。
泡を落とすようにシャワーをかけながら優しく身体を手で擦る。
「どこか痛いとこある?」
「・・・な・・・い」
やさしく動く桃城の手にあの時の動きを思い出して身体を振るわせる。
「そうか・・・」
やさしく笑うと視野の中に反応し始めた海堂のモノが見えた。
「どうしたんだ?洗ってただけなのに、感じちゃった?」
意地悪く笑って見せる。
「・・・てないっ!」
パッと避けるとタオルを引っ張り出し、身体を隠しフラフラした足取りで脱衣所へ逃げようとした。
「まてっ!そんなふら付いた足で無理に歩こうとすると転ぶぞ!」
言った傍からガクッと崩れ落ちそうになる。
「ほら、言った傍から・・・」
「だ・・・って・・・ヘンなことお前が・・・言うから・・・」
真っ赤になって桃城に言う。
「それは感じちゃう薫がイケナイと思うな~。まぁそういう身体にしたのは俺だけど」
意地悪く笑う。
「っもう離せよ!!あがるっ」
「はいはい。我侭なお姫様で・・・」
桃城は苦笑いを浮かべた。
「ふんっ」
すねたように顔を背ける。
ははっと苦笑いを浮かべたまま海堂が転んでもすぐ助けられるように後ろを歩く。
後ろから付いてきてくれる桃城に安心しながら、腰がだるい為どうしても足がふら付いてしまう。
「大丈夫か?」
足元がふらついて後ろから落ちそうになったところを抱きとめられた。
「あ・・・りがと・・・」
桃城の手にほっとしながら素直にお礼を言った。
「どういたしまして」
にっこりと笑う桃城も嬉しそうだ。
部屋に戻った海堂はつかれたようにベッドに腰をおろした。
「つかれたか?」
優しく問い掛ける。
「ん・・・少し」
タオルで頭を拭きながらタオルの下から立っている桃城を見上げる。
「何か、飲み物持ってくるな?冷蔵庫の中から適当に持ってきていいか?」
ドアに手をかけて、すぐに部屋を出られる体制をとる。
「あ、あぁ」
既に部屋を半分出ている桃城の背に向かって言った。
「これ持ってきてよかった?」
そう言って桃城が差し出したのは海堂がいつも部活で飲んでいるミネラルウォーターだった。
「あ、うん。ありがと」
ボトル受け取るために手をのばす。
伸ばされた手に、さも渡すかのような仕草を見せておきながらスッと引いて自分で飲んでしまった。
「アハハ、二度も同じ手に引っかかんなよな?」
からかって笑った。
「くっ・・・」
海堂は悔しそうに桃城を睨みつける。
”二度も”というのは以前にも海堂は自分の誕生日に同じ手に引っかかっており、その後コトに
続いてしまっているのだった。
「冗談だよ・・・はい」
笑いながら海堂にミネラルウォーターを差し出す。
「・・・」
警戒しながら手を伸ばす。
「はは、そんな警戒しなくても大丈夫だよ。もうしないから」
そう言うと素直に受け取った。
そうして口を付けると、3口ほどミネラルウォーターを飲んだ。
「さてと、オレ・・・帰るよ。薫もおちついたみたいだしな」
落ち着いた海堂を見て帰り支度を始めた。
「・・・あぁ・・・」
桃城の帰るという言葉に少し寂しげな表情をした。
「気をつけた・・・帰れよ」
「あ・・・あぁ」
いつもと様子が違うことに気がつき心配になった桃城。
「どうした?元気ないぞ?」
「え、そうか?いつもとかわんね-よ」
あわてて桃城から目をそらす。
「なんか変だって。オレがいなくなるから寂しい?」
冗談のつもりで言ったことが図星だったらしく、桃城から背けた顔を赤く染めている。
「んなわけねーじゃん!早く帰れよっ」
強がって見せる海堂だが、胸の中は寂しさで押しつぶされそうだった。
「じゃぁ・・・なんで泣いてるんだよ」
知らぬ間に海堂の頬を涙が伝っていた。
「寂しいなら、寂しいって言ってくれよ。全て胸にしまい込まないで」
海堂を抱きしめる。
「っ・・・だって・・・女々しいだろ・・・オレだって、男なのに・・・お前に
抱かれるたびに弱くなるんだ・・・こんなオレ嫌だ。だから・・・帰るななんて言えない・・・」
「大丈夫だよ。薫の全部見せてよ・・・俺は薫の弱いところも知りたい。薫の力になれないか?
そんなに信用ない?弱いところがあるんなら、オレが補ってあげるよ。だから、何でもオレにだけ
は言ってくれ・・・。言えない秘密まで話せってことじゃない・・・できるだけお前の
力になりたいんだ・・・」
海堂を抱きしめる腕に力が入る。
「・・・前は・・・お前にそんなこと言われたら、フザケンナってケンカになってたのにな・・・。
なんで今はこんなに嬉しくなるんだろ・・・やっぱり女々しすぎるよオレ。」
桃城の腕の中で呟く。
「女々しくなんかないよ・・・薫はオレの事を好きだから自分の弱いところ見せてくれるんだろ?」
海堂の頭を優しく撫でる。
「・・・じゃぁ・・・お前はオレのこと好きじゃないから弱い部分見せてくれないのか?」
腕の中からまだ濡れた瞳で見上げる。
「そう言う訳じゃないけど、俺が泣いたりする時ってきっと一生で一度だから・・・。
そのうち、いつか見せる日が来たら薫は俺のこと慰めてくれるのか?」
海堂の頭をなでながら内心そんな日が来ない事を祈った。
俺が弱いところを見せる時はきっと”別れよう”と海堂に言われる時だから。
「そんな日が来ればな・・・。お前が落ち込む日って、
どうせ食いモン食い損ねたとかそんなんだろ?」
海堂は桃城のキモチを知ってか知らずか、そんな風に笑顔で言った。
「・・・でも言っとくけど、俺をこんなに弱くしたのはお前だからなっ。一生責任取れよ!」
海堂の遠まわしな告白。
ずっと一緒に居て欲しい・・・と。
「ハハっ・・・あぁ、一生大切にするよ、薫。ずっと愛し続けるからな!覚悟しとけよ!」
桃城は笑っていたが密かに嬉涙を浮かべて海堂を強く抱きしめた。
END
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