promise 約束
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「あ、桃城、海堂!!明日の花火大会で決行だぞ!六時に裏鳥居の前に集合な!」

神尾は二人に向かって言った。

「どうせなら、色っぽい頼み事して欲しかったぜ・・・」

桃城はブツブツと呟いていた。

「あっ、ああ明日の花火大会?裏鳥居な・・・分かった」
神尾に急に話しかけられ少し焦って返事をする。

「ばぁーか。」

海堂は悪態をつきながら、すでに帰る準備が整っており、隣のコートでも深司だけが帰れる格好をしていた。

どちらも相手を振り回す性格らしく、海堂と深司はほぼ、同時に出口へ向かって歩いていた。

「うわっ!ちょっと待てよ!ったく少しは待っててくれてもいいんじゃねーか?なぁ、神尾?」

桃城は神尾と二人で海堂達を追いかけながら神尾に文句を言う。

「お互いパートナーには苦労するな?」

神尾も同感なのか苦笑いしながら桃城に返事をする。

「おい、深司!一回学校寄ってくから待てって。それより桃城、良かったな♪

お互い良いものが見れることになって♪明日は楽しもう。じゃーな♪」

二人にしてみれば、明日は楽しみ以外の何ものでもない。

ニヤッっと笑ってダッシュで深司を追いかけていった。

「フッ・・・神尾もお疲れさまって感じなのか・・・」

桃城もそう呟くと苦笑いを浮かべた。

「明日が楽しみだぜvな?薫!!」

意味もなく海堂の肩を組んだ。

「触んなっ。何が楽しみだっ」

いつものことだがスタスタと歩く速度を速める海堂。

そして口の中で「ばかやろうっ」と呟くのだった。

次の日の約束の時間・・・

「おっ!なんだ、もういるじゃねーか。待たせたな!!少し手間取っちまって・・・。

うわっ、伊武・・・すげー可愛いんだけど・・・。オレ、惚れちゃいそう。なんてな!」

桃城達は五分遅れで到着した。

四人揃っても海堂はずっと、下を向いたままだ。

「もぉーもしろ♪マムシ君がまだなんにも喋ってないんだけど?」

神尾は嬉しそうに深司の肩を抱きながら桃城に突っ込みを入れている。

周りからは「背の高いカップルー!」などと歓声が上がっていた。

「あっ・・・いや・・あの・・・恥ずかしがってんだよ。こいつ綺麗なのに顔上げないし。

ほら海堂・・・顔上げろよ!ちゃんと綺麗だから自信もて。」

確かに綺麗なのに顔を上げようとしない海堂。

「・・・いやだ」

駄々をこねる子供のように、しかし威圧感がある。

「海堂君・・・似合うよ・・・」

ボソボソと深司も言っている。

「大体こんな事して・・・何が目的だっ」

怒っていても顔を上げない。

「目的も何も試合で引き分けだったんだから、仕方ないだろ?海堂・・・顔上げろって」

強く言っても顔を上げない海堂の耳元で囁いた。

「薫、顔上げろ。ホラッ!!いい加減にしろよ!」

「・・・このっ・・・バカッ・・・何でわかんねーんだよっ・・・お前のためだけに・・・」

海堂はさらに怒っていた。

人に見られるのは嫌だけど、桃城にならと思い着てきたのだ。

海堂の言った意味が俺のために着てきてくれたと何となくわかり、桃城は一気に耳まで真っ赤になった。

「おい!お前なんで赤くなってんだよ。」

神尾が鋭く突っ込む。

「なっ・・・何でもねーよ!!海堂がお前等には顔見せらんねーってさ。

仕方ねーから、このままお開きと言うことで・・・・・」

笑ってごまかそうとする桃城。

「は?何で?これから楽しむのに。」

帰してくれるはずもない神尾。

「あ・・・いや・・・あの、はぁ・・・わかったよ遊びに行こう。」

海堂と二人きりになれないまま何処へ行こうかなどと話が勝手に進んでいった。

「ごめん・・・薫。後で神尾達から離れよう。で、俺に見せてくれよ!薫の全部。」

神尾達に分からないように海堂に小声で話す。

「・・・もう、いい。」

拗ねたように目を瞑る。

「桃城達♪あれ食おうぜ」

神尾が指差したのは、杏飴の屋台だった。

「僕たちが買ってくるから、この辺で待っててよ」

深司はそう言うと桃城の肩をポンと叩いて、神尾を人混みの屋台へと引っ張っていった。

「はぁ・・・」

海堂に『もう、いい』と言われてから桃城は溜息ばかりついていた。

しかし、伊武がせっかくくれたチャンスを逃すまいと、

海堂の手を掴んで神尾達とは反対の方向へ歩いていく。

「あっ・・・桃っ?」

いきなり引っ張られて足がもつれる。

「おっおい!!大丈夫か?ごめん強く引っ張った・・・」

足を止めて転びそうになった海堂を支えた。

「いや・・・浴衣って・・・歩きづらいな・・・」

桃城に掴まった海堂は思わず素直に感想を言う。

一方別の二人は・・・

「あれ?あいつらどこにいったぁ?」

神尾は杏飴を両手にキョロキョロする。

「あぁ、きっと人混みでハグレちゃったんだよ。また後で探そう。」

深司は慌てて神尾を説得し、そして神尾は納得したのか二人は人混みの中へと消えていった。

「あ・・・ああ、歩きづらいよな?どうする?このまま着替えるために帰るか、それとも花火大会を楽しむか・・・」

素直に気持ちを言う海堂に少しびっくりした。

「ん・・・もう少し歩けば慣れると思う・・・」

桃城の顔が恥ずかしくて見れず、俯いた。

「そ・・・そうか?無理するなよ?じゃあ、少し歩くか・・・」

いつもと違う海堂にどう接していいか戸惑う桃城だった。

「・・・なぁ?どうした?」

いつもより口数の少ない桃城に異変を感じ上目遣いに桃城を見る。

「・・・あ・・・いや・・・何でもないよ!ハハっ」

『薫の一言で傷付いてるなんて言えない・・・』

桃城は苦笑いをした。

「そうか・・・?ならいいいけど・・・」

そしてまた歩き出した。

少し歩くと桃城の腹が鳴った。

「なぁ、腹減らないか?そこら中に食い物もあることだし・・・。俺、たこ焼き食いてーんだけど」

申し訳なさそうに話す。

「あ、オレも今言おうとした・・・てかオレのど乾いた」

海堂は桃城の意見に同意した。

「よし!じゃあ、お前の意見『のどが渇いた』から満たしていこう!

やっぱり祭りと言ったらラムネでしょ?炭酸大丈夫だったよな?」

歩きながら海堂の好きな物を確かめる。

「大丈夫、飲める。」

コクンと頷く。

「じゃあ、買ってくるからちょっとここで待ってろよ?」

そう言うと走って人混みの中へ消えていった。

「・・・早いな・・・」

さっき言ったと思ったらもう帰ってきた桃城を見て驚く。

「・・・はぁ・・・はぁ、ただいま♪そんなに待たなかったよな?」

海堂に悪い虫が付かないようにと猛ダッシュをしてきた為、

肩で息をしながらしゃがんでいる海堂に訪ねる。

「凄い汗かいてる・・・」

フッと笑ってハンカチを取り出して桃城に手渡すように手を伸ばす。

「おっ!!サンキューな?」

借りたハンカチで汗を拭った後そのままハンカチを返す。

「じゃあ、のども潤された所で何か食うか・・・。とりあえず、たこ焼き買っていい?

今凄く食いたい!薫は食べるか?それとも他に食いたいもんあるか?」

海堂は桃城が自分のことをかなり気にしてくれてとても嬉しかった。

「じゃあ・・・焼きそばとお好み焼きと、イカ焼きと・・・後、たこ焼き」

恥ずかしさを隠すために一気に食べたい物を並べた。

「アハハ、薫よく食うな〜よし!分かった!!買ってくるからちょっと待ってろ?」

そう言うと海堂の食べたいものの屋台を探しながら走った。

海堂を待たしてはいけないと思い、食べたいと言われたものを片っ端から買っていった。

「あれ?今、桃城がいなかったか?」

屋台付近にいた神尾が深司に言った。

「えっ?そうかな?気のせいじゃない?俺には分からなかったけど・・・」

深司は気づかないふりをした。

「オレの気のせいかー・・・」

神尾は不思議そうな顔をした。

「ああ、きっとそうだって・・・」

深司は曖昧な返事をした。

「やっぱり、頼みすぎたかなぁ・・・」

海堂は桃城を待ちながら呟いた。

「はぁ・・・はぁ・・・焼きそばと、たこ焼きと、イカ焼きと、とりあえずそれだけ買ったけど、

お好み焼きって屋台で売ってんのか?見つからねーんだけど。仕方ねぇ・・・リンゴ飴でも買ってくか・・・」

海堂の食べたいものを一つ一つ確かめていく。しかし、どうしてもお好み焼きが見つからないので、

代わりにリンゴ飴を買いに行くことに決めた。

「おっちゃん、リンゴ飴二つくれるか?」

桃城は沢山買い込んで、海堂の待つところまで走った。

「あ・・・お帰り。全部買えた?」

明るみの方から海堂の待つ、暗闇へ桃城が戻ってくる。

「あっちに自販機があったから、買ってきといた。ラムネもう終わっちゃったし」

そう言って缶ジュースを持ち上げた。

「おう!!サンキュ☆買ってきたぜ、お姫様の望む物を。」

笑いながら海堂の分を手渡した。その中の赤いリンゴ飴が目立った。

「オレが姫なら、お前はジイだな?」

そう言って海堂は笑った。

「お前ジイとか言うな!!お前が姫なら俺は当然、王子だろ?

嫌な事言うよな〜俺傷付いたぜ・・・」

桃城が泣いたふりをすると海堂は笑った。

「なぁ?このリンゴ飴・・・」

「ああ、リンゴ飴な・・・お好み焼きが見つからなかったから、

その代わりにと思って買ってきたんだけど・・・

やっぱ、別のもんの方が良かったか?」

「無かったんだ、いいよ。オレこれでも」

そう言っていつになく笑う回数が多い海堂。

さらに女物の浴衣を着ているだけに女性のようだ。

「そっか、良かった」

優しく微笑んだ。

「薫・・・楽しい?」

急に変なことを聞いてきた桃城に海堂は戸惑った。

「?」

首を傾げてから少し黙る。

「楽しいよ。桃といるから・・・桃は楽しくない?」

少しだけ俯いて伺うように桃城を見た。

「楽しいよ、俺も・・・薫と一緒にいるから。」

そう言って笑った。

「っ・・・オレ、綿飴食べたい」

素直に返された桃城の言葉に赤くなった海堂は俯いてから、慌てて食べ物の追加注文を出した。

「分かった!いいよ、買ってくる。じゃあ、リンゴ飴でも食って待ってな?」

笑って買いに行った。

また人混みの方へと消えていった桃城を見つめながらリンゴ飴を口に含んだ。

そんな海堂を見つめる人影が・・・